仮眠中の体温変化が及ぼすその後の作業効率の変化

研究概要

 近年,日本人の睡眠不足は深刻な問題となっている.睡眠不足の主な原因としては,労働環境の変化やスマートフォンの長時間利用などがある.睡眠不足は身体に影響を及ぼし,作業効率低下に繋がってしまう.この睡眠不足の解決策として注目されているのが仮眠である.仮眠は寝不足による日中の眠気対策の手段として有効であることが分かっている.しかし,長時間の仮眠は睡眠の深度が深くなりすぎてしまい,仮眠からの起床直後の眠気や疲労感といった睡眠慣性を高めてしまう.そのため,仮眠時間は20分が適切であるとされている.

 本研究では,深い睡眠状態の時の体温が低いことに注目し,仮眠中の足に体温提示をすることで,睡眠深度が深くなることを妨げ,睡眠慣性の上昇を阻止することによる作業効率の向上を目的とする.

睡眠深度と体温

 睡眠深度は大きく”覚醒”と”睡眠”の2つに分けることができる.本研究では,これらを仮眠中の心拍変動のFFTから算出した自律神経有意から判別する.その際,交感神経(HF)有意を”覚醒”,副交感神経(LF/HF)有意を”睡眠”とする.この睡眠深度と体温には深い関係性があり,人間は入眠30分前から末端皮膚温が上昇し放熱が行われる.これにより深部体温が低下し,入眠することができる.そこで本研究では,足全体に温度提示することにより,熱をこもらせることで放熱を防ぎ,体温が低下することを阻止する.これにより,睡眠深度が深くなることを妨げる.

Frequency Analysis for HRV

提案手法

 本研究では足全体に温度提示を行うため,ペルチェ素子を利用した暖房装置を作成した.ペルチェ素子により暖気を発泡スチロール内部に送り,内部の撹拌ファンによりその暖気を撹拌させることで,温度を均一に保っている.また,内部の温度センサからのデータを基に,Raspberry Piを用いて制御ファンを駆動し,発泡スチロール内部の温度を制御している.

 作業効率の評価方法としては,クレペリンテストを参考にした自作のテストを作成し,解答数と正解率で評価した.

Heating System

実験

 仮眠時間は1時間とした.これは,睡眠深度が深くなるのに30分以上かかるためである.また装置の有無,提示温度の違いによる作業効率の変化を比較するために,装置の有無による2日間を1セットとする実験を2セット行った.

 実験の流れとしては,自作テストを10分間10分間行い,10分間のインターバル後仮眠を60分間行う.起床後10分間のインターバルをはさみ,再度自作テストを行い,睡眠の自己評価をして実験は終了となる.装置有りの場合では,最初の自作テストとインターバルの時点で制御装置に足をいれる.これは,仮眠開始と同時に指定の温度を提示する際,足の皮膚温と装置内の温度との差を小さくする必要があるためである.

Experimental Procedure

実験結果

 提示温度が50 ℃の時,装置有りでは作業効率が上昇することが分かった.また睡眠の自己評価と自律神経有意の結果も同じであることが分かった.一方,提示温度が40 ℃の時,装置の有無によらず作業効率が低下した.また,睡眠の自己評価に関しても自律神経有意とは異なる結果となった.原因としては,時間周波数解析の結果から仮眠中に数回覚醒してしまったことであると考えられる.

 以上から,提示温度によって作業効率に変化があることが分かった.また,仮眠中覚醒状態であっても,目を瞑るだけで睡眠慣性に似たものが起こることも分かった.

Results of The Test(Temperature:50 ℃)
Results of The Test(Temperature:40 ℃)
Frequency Analysis for HRV(Temperature:50 ℃)
Frequency Analysis for HRV(Temperature:40 ℃)
Tiem Frequency Analysis of HRI(Temperature:40 ℃)

今後の展望

本研究では被験者が一人であったことから有意性に欠けている.今後は被験者の数を増やし,より多くのデータから装置の有意性を検証していきたい.

また,足へ提示する温度を仮眠中にリアルタイムに変化させることで,睡眠深度のコントロール装置の開発に繋げたい.

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