ヒトは、指と道具、道具と対象物との間の力のバランスを考慮することで、道具を巧みに操作します。これらの動作は繊細な力加減を必要とするため、個人差が生じやすく、動作の熟達には支援が求められます。これまでに提案されてきた熟達支援システムの多くは、道具本体に着目した手法であり、指先の力加減には十分に対応していませんでした。そこで本研究では、指先へのアプローチによって動作の熟達を促進するシステムを提案します。
本研究では、日常生活において広く用いられる筆記動作に着目しました。筆記動作に関する先行研究では、達筆な書き手ほど筆圧が低い傾向にあり、筆圧と把持力との間には正の相関があることが示されています。これに着目し、本研究では筆記中の把持力を弱める方向に力を提示することで、より熟達した筆記動作を誘導できると考えました。
本提案では、モータを用いたワイヤ駆動機構により、親指・人差し指・中指の3本の指に力を提示する装置を開発しました。この装置は、ペンに設置された圧力センサからの入力値に基づいて指先への力を制御する仕組みとなっています。
現在は、より高度な熟達支援システムの構築に向け、筆圧や筆記精度に加えて、把持力や手の姿勢も考慮した力覚提示手法の検討を進めています。複数のカメラを用いて手の姿勢を計測し、Google社のMediaPipeによるハンドトラッキングを導入することで、リアルタイムかつ高精度な筆記動作の計測を実現しています。
今後は、こうした計測結果をもとに、指先への力提示による熟達支援の実証を行います。さらに、モータに加わる反力を用いたセンサレス制御の導入により、特定の道具に依存しない汎用的な熟達支援システムの構築を目指します。


