背景・目的
人間がメトロノームに合わせてリズムを演奏する際,人間のリズムとメトロノームのリズムとの間に微小なタイミングのズレが発生する.熟練した演奏者のズレは「グルーヴ感」と呼ばれ,音楽のノリや一体感を表す指標として用いられている.
複数人で演奏を行う場合,メンバー間でグルーヴ感を一致させる必要がある.しかし,現状のグルーヴ感共有においては,リズムの伝達手段が聴覚に大きく依存しており,グルーヴ感共有の精度が演奏者個人の技量に左右されるという問題がある.

本研究では,人間的なズレを含むリズム(グルーヴ感があるリズム)を,振動を用いて被験者に提示することで,直感的にリズムのグルーヴ感を伝達することが可能なシステムの開発を目指す.研究の第一段階として,人間的なズレを含むリズムの振動提示が,人間のリズム演奏に与える影響について調査した.
提案手法・実験方法
実験システムとして,実際に人間が叩いたドラムのリズムを音声と振動で同時に出力することが可能なシステムを制作した.また,リズムに合わせて四分音符を左右交互に叩くタスクにおいて,振動提示の有無を切り替え,提示したリズムと被験者が叩いたリズムとのタイミングのズレを測定する実験を行った.

実験で取得したデータにおいて,振動提示あり/なしの場合に対して以下の指標を用いて評価した.
・ズレの確率分布におけるワッサースタイン距離(WSD)
・ズレのトレンドにおける相関係数
実験結果・考察
実験の結果,一部の被験者において,振動提示によってWSDの低下および相関係数の上昇が発生し,グルーヴ感の伝達が確認された.一方,振動提示によってWSDの増加や相関係数の低下が発生した被験者も確認された.


被験者によって振動提示の影響に差が発生した原因として,被験者によって「リズムの取り方(リズム入出力に関する内部モデル)」に個人差が存在する可能性が考えられる.このことから,振動刺激を用いてグルーヴ感を伝達するためには,振動刺激を適切に処理できる内部モデルの構築が必要であると考えられる.
今後の展望としては,複数人での演奏に対応した実験システムの制作や,内部モデルの個人差を考慮した振動出力システムの構築などが考えられる.
